2018/10/21
AGAの専門クリニックで育毛メソセラピーを勧められた、もしくは過去に受けていたという患者さんが、当院には沢山来院されています。
カウンセラーや医師から言葉巧みに治療を勧められるケースがあるようで、以下は患者さんが他院で説明された内容をそのまま掲載しています。
- 「メソセラピーが根幹の治療で、内服薬は補助的なものですよ。」
- 「メソセラピーをやらないと意味がないですよ。」
- 「今、発毛実感コースを1年ご契約いただければ、効果の高い育毛メソセラピーを2回分も無料でお付けします!」
- 「一度生えたら一生モノですよ。決して高い治療ではありません。」
これらの内容を検証していくとともに、育毛業界における育毛メソセラピーの問題を記述していきます。
目次
育毛メソセラピーとは
メソセラピー(mesotherapy)とは、meso(細孔=小さなあな)とtherapy(治療)に表されるように、極細い注射針で皮下に薬液を注入する治療の総称です。
メソセラピーは、もともと脂肪を溶かす作用のある薬剤を、お腹や太ももなどに細かく注射していく、脂肪溶解注射の代名詞として使用されていました。その後、メソセラピーは、成長因子やプラセンタなどを顔全体に細かく注入していくアンチエイジング治療にも応用されるようになりました。また、注射器を使わずに薬液を浸透させるエレクトロポレーションやダーマペンも、細胞に細かい孔を空けるという意味で、広義にはメソセラピーと解釈されています。
育毛メソセラピーは、頭皮に成長因子や発毛剤を細かく注入するAGA治療のことです。注射だけでなく、エレクトロポレーション法や炭酸ガスのジェット噴射によって薬液を注入するノンニードルセラピーも、メソセラピーに含まれます。
育毛メソセラピーの成分と内容
育毛メソセラピーは、AGAメソ、FAGAメソセラピー、ドクターメソ、Dr’sメソ、ハーグ、スマートメソなど、各クリニックによって様々な呼び方があります(※)
※この項目では育毛メソセラピーの呼称の例を載せているだけで、施術自体、もしくは、その呼び名を使用しているクリニックすべてを批判しているわけではありません。
クリニックによっては、「オリジナルの発毛カクテル。」「当院だけの特別な配合。」と謡い、治療に使っている注射液の内容と細かい成分を開示しておらず、治療を実際に受けている患者さんが問い合わせても、内容を教えてもらえないこともあるようです。
よく使用されている薬剤
クリニックによって異なりますが、AGA治療専門医院で使用される薬剤には、以下の4つがあります。
- スペイン・メソライン社製の「MESOLINE HAIR(メソラインヘアー)」
- アメリカのBenev(ベネブ)社製の「Benev(ベネブ)」
- 韓国Prostemics社が製造しているヒト脂肪幹細胞培養上清に、米Finningan Pharma社製の育毛剤であるmesoHAIRを混ぜ合わせて作った「HARG(ハーグ)」
- 化粧品会社製造の「FGF7(ヒトオリゴペプチド-5)」
これらにミノキシジルやフィナステリド、各種ビタミン剤等を混ぜて薬液を作っている場合もありますし、上記以外の薬剤を使用しているクリニックもあります。いずれにせよ、施設によって使用する薬剤はバラバラであり、効果も一定ではありません。
HARG療法については、「HARG療法・ハーグ治療を中心とした幹細胞発毛治療」をご参照ください。
育毛メソセラピーの効果
当ブログでも成長因子を使用した育毛メソセラピーの有効例の写真を掲載していますが、組み合わせや使い方によって成長因子治療は一定の効果を認めます。しかし、効果に個人差があり、決して発毛率99%、満足度90%以上などと誇大に宣伝されている程ではありません。当院に転院した患者さんの中で、「効果の出なかった方はいません!」と豪語している某クリニックで治療を過去に受けても効果が出なかったという方は、複数名おられます。
効果が持続しない
育毛メソセラピーの効果が得られた場合でも、治療を止めると効果がなくなってしまい、数ヶ月から半年で元通りになります。治療を受けた90%以上の患者さんにで発毛効果が維持される、一度生えたら一生モノなどと説明しているクリニックもあるようですが、医学的に考えてもそのような治療はなく、あったらノーベル賞ものです。
内服薬は必須
育毛メソセラピーで効果があったという患者さんで、その後内服薬等の治療をせずに、効果を維持できている患者さんに会ったことがありません。もしも、発毛効果が100%で、ずっと維持できるのであれば、育毛メソセラピー単独の治療でも問題ないはずです。
しかし、実際にはほぼ全例の患者さんに、内服薬が一緒に出されています。内服薬を拒否して育毛メソだけを選択した患者さんは、効果が見られないか、効果が見られたとしても数ヶ月で元に戻っています。育毛メソセラピー単独では、しっかりと髪を生やす効果に乏しく、効果がある患者にも維持する作用は期待できず、エビデンスがありません。
治療効果が出てきたとしても、内服薬と一緒に施術が行われているので、ほとんどの効果が内服薬によるものの可能性があります。育毛メソセラピー単独の効果かは判断しづらく、あくまで補助的な治療と考えたほうが良いでしょう。
メソで生えやした後に、内服薬で維持していきましょう。という説明を行っているクリニックもあります。しかし、強力な発毛薬のミノキシジルタブレットですら、中断すると、たとえデュタステリドやフィナステリドなどの脱毛抑制薬を飲んでいたとしても、その分の効果はなくなり、抜け毛が増えます。メソの効果が永遠に続くことは考えにくく、そのようなエビデンスもありません。
高額な抱き合わせ商法
育毛メソセラピーの価格は、1回の施術料金が5万円~10万円と高額に設定されていることも珍しくありません。AGAの治療は継続しなければ意味がないため、そんなに高い施術を毎月受け続けるのは現実的ではありません。
本来AGAは、内服薬のみで十分に治療が可能なはずですが、無資格のカウンセラーが「育毛メソセラピーが一番大切です!これを組み込まないと意味がありませんよ。」などと詐欺まがいの説明を行い、「デラックス発毛コース」などと謳って、内服薬とセットで年間80万などという高額なローンを組ませているところもあるようです。
また、もう少し安価な内服薬中心のコースを設定し(それでも患者さんの話では、年間40万円と高額だったそうです)、患者さんが契約を渋ったら、カウンセラーからすかさず「今日契約してくれれば、すごく効果のある育毛メソセラピーを2回分つけちゃいます。1回で8万円もする特別な治療なんですよ。2回分で16万円もお得になります!」などと言葉巧みに、すぐに契約をせまるところもあるようです。
もはやそういうところは医療機関でもなんでもないですね。ちなみに、内服薬をわざわざオリジナル発毛薬として処方していることについては、「AGA専門クリニックや美容外科のオリジナル発毛薬の内容と問題点」と「腐りきっている脱毛症・AGA治療業界 その2」をご参照ください。
それでも育毛メソをやりたいなら
当院は、長く成長因子の治療と研究を続けていました。育毛メソや成長因子製剤もできるだけ安い価格に設定し、長期に通院していただいている根強いファンの患者さんも数多くおられましたが、効果に個人差があることや、AGA業界が育毛メソセラピーをビジネス化しているため、治療の中止を決断しました。
自費診療のため、医師から正しい説明を受け、効果が持続しないこと、補助的な治療であることなどに同意して、高額な費用を払いつづける覚悟があるのであれば、育毛メソセラピーをやるかやらないかはご自由です。
しかし、医療提供者側から患者側へ、医学的に正しい説明がされていないケースが多いように感じますので、ご自分の体内に入れるものですので、内容成分を隠さずに教えてもらうことは当然ですが、しっかりとメリット・デメリットを説明してくれる医療機関を選択しましょう。
次回は理研とベンチャーのオーガンテクノロジーズの毛髪再生の「タネ」についての私見を少し書いてみようと思いましたが、関連論文を読むのに時間がかかるため、題材を変えて女性の脱毛症について書いていく予定です。