AGAブログ | 肌のクリニック・高円寺院・麹町院

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再生因子FGF7(KGF)と育毛

time 2015/03/04

前々回の記事でFGF7(KGF,ヒトオリゴペプチド5)の発毛における働きを説明しました。ミノキシジルもアデノシンもFGF7の産生を促進して発毛を促すのであれば、FGF7を直接使用したほうが良いのではないかという問いについてです。FGF7は、試験管内では発毛に関わる因子として研究が進んでいますが、実は臨床ではそれほど試験が行われていません。理由の一つに、価格が高いということがあげられますが、それ以外に大きな欠点があります。それは、安定性です。FGF7を溶液化すると、活性が徐々に消失してしまうことが知られています。活性化を保つためには、溶液化しないでフリーズドライ(凍結乾燥)した粉末にしなければなりません。例としてFGF7製剤ではありませんが、科研製薬から医療用で販売されているFGF2製剤のフィブラストスプレー®は、医師が処方した段階では粉末状になっています。処方された製剤を、患者さんが使用する前に付属の溶液と、FGF2の粉末を混ぜて使用します。一度溶液化したものは、10℃以下の冷暗所(つまり冷蔵庫)で保管し、2週間以内に使いきらなければなりません。科研製薬の担当者ともお話しましたが、17日間までは蛋白の重合化(寄り集まって固まってしまう)は起きないが、それ以降は重合化や変性が起きて活性が低下するとのことでした。そのため、使用期限が2週間と定められており、それ以上経ったものは、使用できません。ちなみに余談ですが、フィブラストスプレーの溶解液は、ベンザルコニウム塩化物(消毒液)を使用しています。また、FGF2は、皮膚への作用の他に歯槽骨再生作用があるために、歯周組織再生治療剤「KCB-1D」として、治験が行われています。

FGF2とFGF7 の安定性は多少は異なると思われますが、FGF7が水溶液中で1年以上安定した活性を保っていられるのであれば、大手の化粧品メーカーが商品化へ参入してくるでしょう。FGF7の発毛効果に関しては、貴重な臨床データがNPO法人EGF協会より出展されています。FGF7単剤の塗布(つまり頭皮に塗る)だけで、男性では10人中7人、女性では10人中9人に毛量増加を認めたという結果になっています。(FGF7単剤塗布による臨床実験。)EGF協会が行っている試験のように、添加するFGF7の濃度が高濃度であれば、徐々に活性が落ちていく中で、ある一定の期間は効果が認められるのかもしれませんが、溶液化されてから半年や1年以上たった後に、活性が残っているかは非常に疑問です。私が話を聞いた再生因子(成長因子)を扱う会社(商品を扱っている化粧品会社ではなく、自社で再生因子を製造している会社)では、市販されている再生因子入りの化粧品は、ほとんど効果が認められないだろうとの見解でした。

実際にその会社が、市販されているEGF(上皮細胞成長因子)入りの化粧品を複数調査した結果、化粧品注のEGFの活性が消失してしまっていたとのことでした(その会社が調査した化粧品に限るため、すべてのEGF化粧品が効果がないとは言えません)。EGFは、成長因子の中ではまだ比較的安定性が高いほうなので、FGFであれば尚更活性の低下は避けられないと推察します。

FGF7(KGF)入りを謳って発売されている育毛商品など、インターネットでは散見されますが、医学的に考えてどれほど効果があるのかは疑問です。

書いている人

医師 岩橋 陽介

医師 岩橋 陽介

東京の皮膚科・美容皮膚科「医療法人社団 肌のクリニック」の院長をしています。当院勤務の美容皮膚科医にも時々記事を書いてもらっています。 [医師紹介]

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