2018/10/21
こんにちは。今回は涌水がブログの記事を担当します。
今日は、タバコについてお話しします。
当院では、ニキビ治療を中心とした美肌診療や、AGAや女性の薄毛の治療を行っています。治療の内容によっては、おくすりとの相互作用の問題で、完全な禁煙が必要になることもありますし、喫煙自体が肌や頭髪の症状を悪化させる要因となることもありますので、必要に応じて禁煙を勧めることがあります。
実際、禁煙すると、肌や髪の調子が良くなる方が多いため、患者さんには積極的に禁煙をお勧めしたいものです。
目次
禁煙してみませんか?
診察室で「これを機に禁煙してみませんか?」 と伝えると、「今はちょっと…」と、ためらう方も多くおられます。
重い腰が上がらないのもよくわかりますが、すぐには止められないと思うその気持ちも、 実はニコチン依存症の症状の可能性があります!!!
ニコチン依存症の場合、心の奥では止めたいと思っていても、精神的にも身体的にも依存状態にあり、禁煙に対して気持ちが前に進みにくくなります。 このような依存症状がある場合、自分一人の力では困難なので、禁煙外来のサポートを受けてみるのも良いかと思います。
禁煙外来
私は、以前勤めていたクリニックで、禁煙外来を担当していました。 残念ながら肌のクリニックでは、禁煙外来は行っていませんが、今回の記事が、一つのきっかけになればと思い、その禁煙外来で得られた経験について、詳細を書いてみることにしました。 まだ禁煙を決断できない皆さんや、家族に禁煙をすすめたい皆さん、是非軽い気持ちでお付き合いください。
まず、禁煙外来では、「チャンピックス」という薬の内服を3ヶ月間継続することによって、禁煙のサポートを行っていきます。 チャンピックスは、バレニクリンという成分で、ニコチン受容体に結合し、部分作動薬として働きます。以下の2つの刺激作用と拮抗作用によって、禁煙をサポートします。
- 刺激作用として、少量のドパミンを放出してニコチン切れの離脱症状を軽減する
- 拮抗作用としてニコチンが受容体にくっつくのを遮断し、依存症状を改善する
禁煙外来では、以下の条件を満たすと、保険の適応となります。
- ニコチン依存症を判定するテスト(TDS)が5点以上
- 1日の喫煙本数×喫煙年数(ブリンクマン指数)が200以上
- 直ちに禁煙したいと考えている
- 治療を受けることを文書により同意している
ちなみに、以前に健康保険で禁煙治療を受けたことがある人で、前回から1年経過していない方は、保険の適応になりません。 また、チャンピックス服用中の方で、運転中に傾眠やめまい、意識障害などの報告があるため、服用期間中は自動車の運転は禁止となります。
具体的な治療の流れとしては以下のものとなります。
血圧や体重の測定
禁煙を開始すると、体重が2~3kgほど増えてしまう方も多いのですが、禁煙治療とダイエットを同時に開始すると、共倒れで両方とも失敗することが多いので、ダイエットしたい場合も、まずは禁煙治療が成功して落ち着いてから行った方が良いです。 実際に、禁煙してから増えた体重も、適切な食事や運動で簡単におとせる場合がほとんどです。
一酸化炭素の呼気中濃度の測定
タバコの有害成分の一つである一酸化炭素の呼気中濃度の測定を行います。 禁煙がすすむにつれて、一酸化炭素濃度は確実に下がっていくため、禁煙できているか他覚的にも確認することができます。また、数値が下がっているのを確認できると、ご本人のやる気にも繋がっていきます。
医師による診察
次に、診察にて、喫煙本数や、離脱症状、副作用の有無などを確認します。 チャンピックスの副作用として一番多いのが、吐き気です。 特にこの副作用は、服用開始の数週間に出やすいのですが、最初の1週間は、用量を少なめに開始して除々に身体を慣らしていくので、あまり心配いりません。
ただし、人によっては内服期間の3ヶ月の間ずっと吐き気に悩まされる方もいらっしゃるので、症状が強い方の場合は、吐き気止めを併用しながら継続する場合もあります。
看護師によるカウンセリング
禁煙外来ではカウンセリングが重要となってきます。 内服するだけだと、不安が強い方が多いので、悩みを相談してもらいながら、一緒に禁煙期間を乗り越えていきます。 特に、カウンセリングを行っていくと、ご自身の喫煙パターンが分かってきたり、知人にタバコを勧められた時への対処の仕方を話し合えたり…と、様々な問題を解決できるため、一人で抱え込まずに不安を外に出していくことができます。
医師との診察は、時間を十分にとれないこともあったり、遠慮して不安などを打ち明けられない方もいるので、禁煙治療に熟知した看護師にカウンセリングを行ってもらい、チームとして治療を行っていくことが治療の鍵になるかと思います。
治療期間と費用
治療期間は3ヶ月で、費用は自己負担額が3割の人の場合、1万3,000円~2万円程度となります。 自分一人で行うよりも、楽に禁煙することができ、治療自体もシンプルなものではあるのですが、患者さんの禁煙成功率を上げるのは、意外と難しかったりもします。
禁煙を成功させるために
私が禁煙外来を担当し始めた当初は、「禁煙の決意だけでも、強いストレスがかかっているのに、あまり厳しく指導するもの良くないだろう」と思い、極力受容的な診察を心がけていました。 たとえ、来院日程を守れなかったり、1ヶ月薬を飲まないまま放置してしまったり…といった、服用コンプライアンスの悪い患者さんであっても、 それでも頑張って来院してくれたことを評価して、どうにか励まして治療を行っていました。
患者さんにとっては、短期的な目でみるとストレスフリーな診察であったかもしれませんが、結局、禁煙できずに途中で離脱する方も多く、受容的な診察は長期的には意味をなさないことを思い知りました。
このままではいけない、と一念発起して、少し厳しめの治療に転換することにきめました。 来院日程は必ず守っていただくこと、どうしても日程が必要な時はきちんと理由を教えていただくこと、無断キャンセルした場合は以降治療を受けられないこと、多忙な人でもカウンセリングの時間はしっかりとらせてもらうことなど、ルールを徹底し、初診時からルールを守る決意を十分確認してから治療するようにしました。
その後は、除々にではありますが、禁煙成功率は改善していきました。 ただ、最初の段階でルールを守れる人をふるい分けしていることになりますので、禁煙できる可能性が高い人が、結果的に割合として増えていただけだったのかもしれません。
タバコの害を理解する
友人がタバコの害について説明しだしたりすると「うるさい!もう聞きたくない!」と思うことはないでしょうか?実は、それこそが依存症の本質です。
タバコは、非常に依存性が強い「薬物」です。依存に陥っている方は、タバコの害を軽視したり無視する傾向となり、正しく有害性を理解できなくなってしまうのです。
当院では、美肌治療やAGA治療を行っていますので、その観点からタバコの害を紹介します。
タバコの害の一つとして、唇が黒く変色していく「ブラックリップ」というのがあります。 詳細は 日本禁煙学会のHPの「ブラックリップ」をご覧いただければと思いますが、 ニコチンによるメラノサイトの刺激、ニコチンによる血管収縮等によって、唇の色がくすんでいく現象です。唇の色をみると喫煙者だと推定できることもありますよね。 また、今までの臨床的な印象では、ヘビースモーカーの方は、目のクマが目立つケースが多い傾向にあります。おそらく、これも唇と同様な機序によるものなのでしょう。 禁煙できると、徐々に色味が回復していくことも多いです。
喫煙は、毛包のDNAを損傷させたり、微小血管の血流を妨げたりすることが示唆されていますが、台湾の男性740名を対象に行われた研究では、非喫煙者と比較して、1日20本以上のタバコを吸っている喫煙者は、中程度または重度の脱毛を起こす可能性が2倍であり、研究者らは脱毛と喫煙との関連性はあると結論づけています。(Su LH.ら「Association of Androgenetic Alopecia With Smoking and Its Prevalence Among Asian Men: A Community-Based Survey.」Arch Dermatol 2007; 143:1401-1406)
美しい唇や目元を目指す方、AGAや薄毛にお悩みの方は、ぜひ禁煙にトライしていただきたいと思います。 当院では禁煙外来は行っていませんが、 内側からの美しさを目指してみてはいかがでしょうか?
最後に、タバコを吸っている方におすすめのTwitterアカウントを書いておきます。呼吸器内科の先生が、「禁煙外来医師」というアカウントでタバコの依存や有害性について詳しく解説してくれています。ぜひフォローしてみてください。当院もフォローしています。