肌のクリニック院長のAGAブログ

医師が本気で考えるAGA治療・脱毛症治療

脂肪細胞とPDGFと発毛

time 2015/03/15

以前の記事で、脂肪幹細胞培養上清を発毛治療に応用したHARG(ハーグ)療法のおかしな点や裏話を書きましたが、謳われているほどの効果はないにせよ、一定の効果が認められることも報告されています。当院でも、HARG療法で使用されているProstemics社の脂肪幹細胞培養上清ではなく、Cell in Bio社の脂肪幹細胞培養上清を治験で発毛治療に使用しましたが、一定の効果はありました(といっても、コスト対効果を考えると、必ずしもおすすめできるレベルではありませんでしたが)。今回は、脂肪幹細胞(脂肪細胞)と発毛にについて一つの興味深い論文から推察してみたいと思います。以下の論文は、2011年に著名な雑誌である「cell」へ掲載されたものです。

Adipocyte Lineage Cells Contribute to the Skin Stem Cell Niche to Drive Hair Cycling. Cell. 146(5):761-71. 2011
脂肪細胞が毛周期をコントロールし、発毛を促進するという論文です。まず基礎知識として、脂肪組織の中には、成熟した脂肪細胞へ分化する前の「脂肪前駆細胞」という細胞が存在します。脂肪前駆細胞はPPARγという因子に刺激され、成熟した脂肪細胞へ分化します。この論文では、脂肪前駆細胞がPDGF(血小板由来成長因子)を放出することにより、毛の幹細胞を活性化させ発毛を促進することを突き止めました。

◯PDGF(血小板由来成長因子)
PDGFは、骨髄にある巨核球という血小板のもとになる細胞から主に放出されていることがわかり、血小板由来成長因子という名前が付けられました。しかし後に、上皮細胞や内皮細胞など様々な細胞から産生されていることが分かりました。分子量は約30,000。PDGF-AからPDGF-Dの少なくとも4つのペプチド鎖が存在することが確認されており、4つのペプチド鎖の内の2つの二量体で存在しています。PDGF-AとPDGF-Bは、PDGF-AA PDGF-AB PDGF-BBという3種類のアイソフォームに分かれています。つまり、PDGF-AA,AB,BB,CC,DDの5種類があるということになります。それぞれに独自の作用があり、また互いに協調したり、他の成長因子との複雑な絡み合いで働くのはどの成長因子も同じですが、PDGFの作用としては、上記の論文であったような毛の幹細胞の活性化の他、平滑筋の増殖、線維芽細胞の増殖、上皮細胞の増殖、骨、歯槽骨の欠損修復などがあります。

◯PRP療法(自己多血血小板血漿療法)
PRP(Platelet-Rich Plasma)療法という治療を聞いたことがある方もいると思います。PRP療法は自分の血液を採って、それを遠心分離機にかけ、血小板が豊富な血漿を分離してそれを患部に注射するという方法です。PRPの中には、様々な成長因子が入っており、特にPDGFが豊富に含まれていることが分かっています。シワの治療などの美容分野だけでなく、アメリカのプロスポーツ選手を中止に怪我の治療にも応用され、最近ではヤンキースの田中将大投手がこの治療を受け、手術を回避して復帰したことがニュースとなっています。また、歯科領域ではその歯槽骨再生作用から、インプラント治療前にPRP療法を行う施設もあります。

AGA治療では、アメリカでPRPとACELL(ブタの膀胱から作成された細胞外マトリックス)を使った発毛治療に取り入れているクリニックがあり、一定の効果をあげています。PRPが発毛に効果があるのは、先に紹介した論文の通り、PRP中のPDGF(や他の成長因子)が、毛の幹細胞を活性化させて発毛を促進させる可能性が推察されます。

◯ASC(脂肪由来幹細胞、Adipose-derived stromal/stem cells)
論文にあった脂肪前駆細胞ですが、この細胞の中には、成熟脂肪細胞以外にも様々な細胞へ分化するという「多能性」を持つ細胞があることが分かっています。その細胞は脂肪由来幹細胞(Adipose-derived stromal/stem cells 略してASC)と呼ばれています。脂肪細胞の中に、多能性のある幹細胞が存在することが報告されたのは2001年ですので、比較的新しい概念の細胞です。お腹の脂肪を採ってきて、このASCを培養し、点滴したり患部へ注射するという再生医療は、実はかなりの件数が行われています。ただ、いくら自己の細胞を使用するといってもリスクはあります。そのことについては、以前の記事を参照して頂ければと思います。

HARG(ハーグ)はこのASCを培養する際に使用した培養液を治療に応用したものです。ASCを培養する過程で、ASCから様々な成長因子が培養液中に放出されるので、それを頭皮へ注射することにより発毛を促そうというものです。培養液中にはPDGFなどの成長因子が含まれていることが分かっていますから、毛根(毛の幹細胞)さえ死滅していなければ、再び毛の幹細胞を活性化させて発毛を促進することが出来そうです。ただ、以前の記事に書いたとおり、発毛率は謳っている程高くありませんし、その他にも様々な問題がハーグ治療にはありますので、一概におすすめできるものではありません。

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京のAGA治療専門皮膚科「肌のクリニック」の院長ブログ。Twitterではスタッフと院長がつぶやいています。 [詳細]