2018/10/21
薄毛になると原因を探す
健康な男性の方で10代後半~40代から始まる、頭頂部や前頭部を中心とした薄毛は、男性型脱毛症(AGA)という疾患です
人間は因果関係を探す生き物で、薄毛になった時に最初に考えることは、「一体何がいけなかったのか?」ということです。
不摂生したからか?タバコや酒か?ストレスか?食生活か?などなど、枚挙に暇がありません。
もちろん、原因がある脱毛症もあります。ある種の薬剤(ステロイドや抗がん剤)が脱毛を引き起こすことは知られていますし、女性ホルモンや甲状腺ホルモンの低下が脱毛を引き起こすこともあります。
しかし、AGAは、ほぼ100%その人のもともと持っている体質(と加齢)に起因します。ここでいう体質というのは、遺伝子によって決められているという意味でもあり、つまり、生活習慣などをいくら改善しようが、ハゲる人はハゲるということになります。
ハゲるときはハゲる
少し前にNHKラジオで、大阪大学皮膚・毛髪再生医学寄付講座教授の板見智先生が、「抜け毛を科学する」という番組に出演して、薄毛に関するトークを行いました。そこでの内容を引用します。
Q毛穴に詰まった汚れを取るとハゲない?
A本来皮膚の汚れ程度で毛の成長は止まらないから、毛穴をきれいにしてもハゲるときはハゲる。Q生活習慣を改善したらハゲない?
A統計上30年前の生活習慣や食事と今と比較してもハゲの数に変化は無いので、ハゲるときはハゲる。Q海藻を食べると毛が生える?
A単なる色の連想ゲーム。海藻だけでは毛は生えない。Q頭皮が硬かったり薄いとハゲるのでマッサージすると良い?
A50年前の迷信。男性型脱毛症では頭皮が柔らかく血流がよくてもハゲるときはハゲる。Q炭酸で頭を洗うと毛が生える?
A生えない。気持ちがいいだけ。Qノンシリコンシャンプーは頭皮に優しい?
A科学的に否定されているのでどちらでもよい。Q頭が蒸れるとハゲる?
A関係ない。ハゲる人はハゲる。Q体毛が薄いとハゲない?
A関係ない。ハゲる人はハゲる。Q白髪の人はハゲない?
A関係ない。ハゲる人はハゲる。引用「ハゲルヤ」より
これを見て、正直な方だなという印象をうけました。通常のテレビ番組では、化粧品会社や育毛サロン、健康食品会社などの育毛業界がスポンサーについているため、このような発言はできないはずです。NHKラジオだから言えたことだと思います。
育毛業界に踊らされる患者たち
昔からよく言われる「毛穴のつまりが抜け毛の原因」などに医学的根拠はありません。患者さんで「毛穴がつまらないように毎日しっかりとシャンプーしてるんですけれどね。」と言われる方がいますが、私はいつもこう答えます。
「医学的に唯一小規模試験で抜け毛抑制の効果があるシャンプーはケトコナゾールが2%配合されたシャンプーだけです。市販のシャンプーは全く意味がありませんよ。お湯だけの湯シャンをメインにして、後は2~3日に1回ケトコナゾールのシャンプーを使うだけで十分です。」
それでもしっかりと洗わないと気が済まないと食い下がる患者さんに対しては、「汚れが気になるなら市販のシャンプーをつかってもいいです。市販のシャンプーを使っても使わなくても、薄毛になる人はなります。ホームレスの男性は、何カ月も髪を洗っていないのにフサフサな人も、そうでない人もいます。どちらでも構いません。」と答えています。
毛穴の汚れを取ることの重要性や、頭皮をマッサージして血行を良くすることの重要性を広めたのは、化粧品会社や育毛サロンを中心とした育毛業界です。テレビのCM、雑誌、インターネットなどの様々な媒体で宣伝しており、私たちは小さいころからそのような広告を見ているため、いざ自分の問題になったときに、それが「常識」として頭に残っており、育毛ケアに多大なお金を使うことになります。
発毛・育毛サロンの衰退
育毛サロンは、頭皮ケア(スカルプケア)と称する、頭皮の毛穴を吸引器具で取ったり、電気をかけたり、マッサージするといった施術が中心となりますが、このような施術でAGAが改善するといった医学的根拠はありません。
それにも関わらず、芸能人をバンバン使ってCMを出し、全国にチェーン展開できていたのは、AGAの患者が「そのようなケアをしないと脱毛が進行してしまう。」と思い込まされていたからであり、また、それ以外に何も治療方法がなかったからです。
男性型脱毛症(AGA)が正式な病名として登録され、フィナステリドやミノキシジルなど、AGAの治療薬が正式に認可されてから、育毛サロンは大きく衰退しました。
育毛サロンは医療施設ではありませんので、男性型脱毛症に対する「治療行為」は法律上できません。また、施術に対して「発毛」という効能効果を謳うこともできません(違反しているサロンは山ほどありますが)。
当院に通院中のAGA患者の中には、過去に大手の育毛サロンに通っていたという方が大勢います。ちなみに効果があったという方は一人もいません。ある患者さんは、200万円のコースを組まされ、1年以上通ったものの全く改善がなく、最終的にはそこのスタッフから「ミノキシジルという薬があるので、試してみたらどうか?」とこっそりとクリニックを教えられたとのことでした。
育毛剤の新たな戦略
育毛剤では化粧品・医薬部外品であり、医薬品ではありません。育毛剤では毛が生えないことは、過去何度か記事にしていますので、ご参照ください。(過去記事「チャップアップに発毛効果はありません」「ビタブリッドCには発毛効果はありません」)
育毛剤業界のやり方は、自社のHPでは発毛を謳わず、消費者を装った大量のブログやSNSなどで「毛が生えた!」「効果があった!」と宣伝するステマサイトが主な広告手法だったのですが、AGAの治療が病院で始まると、効果のない育毛剤をどうにかして売るために、新しい戦略を取るようになってきました。
それは、医薬品の副作用を過度に誇張して、患者の不安を煽る戦略です。
ミノキシジルやフィナステリドの医薬品は確かに副作用がゼロではありませんが、副作用が起こる確率はそこまで高いものではありません。育毛剤の宣伝方法としては「医薬品にはこれだけの副作用があるのだから、まずは副作用のない育毛剤を試してみるのが得策!」などという文言で、消費者を自社商品へ誘導します。
結局育毛剤では効果が出ないので、医療機関へ相談に来ることになるのですが、病院へ行く前の段階で、数ヶ月間育毛剤を使わせることができるだけでも、莫大な利益になります。AGAに悩む人は、国内で1000万以上いるとされていますので、その1%の人が1万円の育毛剤を1本買ってくれるだけで10億円の売上になります。
また、最近では治療をしながらでもOKというような宣伝方法で、効果のない育毛剤を治療と併用させようとする会社もあります。
AGAの治療をするかどうかは、副作用のデメリットと得られるメリットを天秤にかけて考える必要はありますが、AGAの治療に育毛剤を使用するメリットは一切ありません。