2018/10/21
※10月19日にシャープご担当者の試験についてのコメントなどの発表がCNET JAPANからあったので、それについて追記しています。
あのシャープがが突然「プラズマクラスター技術での育毛効果を実証」というニュースリリースを出しました。
はっきり言っていろいろヒドイです。
ニュースサイトや個人のブログなどでは、「毛が生えるドライヤー!」「薄毛が治る!」「プラズマクラスターで毛が2.5倍に!」などの文字が目につきますが、当ブログでも少し検証してみます。
目次
プラズマクラスター技術で育毛効果を実証
シャープは、株式会社ナショナルトラスト(本社:東京都港区、代表取締役社長:瀬戸山秀樹)に試験を委託し、HARG治療センター 新宿桜花クリニック(所在地:東京都新宿区、総院長:福岡大太朗)にて臨床試験専用イオン発生装置(イオン濃度約150万個/cm3)を用いて、育毛メソセラピー※3受診患者の頭皮のバリア機能を向上させることにより、育毛効果が得られることを実証しました。(出典 シャープニュースリリース)
シャープはすごいですね。目の付け所がとってもシャープです。プラズマクラスターに育毛効果があるなんて、普通の企業はなかなか考え付きません。
株式会社ナショナルトラストですが、こちらは美容外科の開業支援や介護老人ホームなどの設計を請け負っている設計・医療コンサル会社です。平成21年からシャープのプラズマクラスターの美肌効果の検証、平成22年からはプラズマクラスターの育毛効果の検証試験を受託しているようです。
HARG治療センター新宿桜花クリニックですが、こちらについてはHARG療法について書いた記事で少し触れていますので、ご参照ください。「HARG療法・ハーグ治療を中心とした幹細胞発毛治療」
育毛効果の試験条件と試験結果
さて、プラズマクラスターの臨床試験ですが、桜花クリニックで育毛メソセラピーを実施している20歳から70歳代の患者115名で行ったことが書かれています。
試験方法は左右の1箇所の頭髪を剃って1ヶ月に1回育毛メソセラピーを実施。その他に毎日20分間のイオンをプラズマクラスター発生装置で右側にだけあてるというもの。
そして試験結果です。
(出典 シャープニュースリリース)
プラズマクラスターを当てた右側は、自然放置の左側に比べて3ヶ月後の「増毛本数」が約2.5倍になり、統計学的に有意な増加となったと結論付けています。
こんなばかげた育毛試験のやり方はない
大手のシャープがニュースリリースを発表するのであれば、もっときちんとした試験を行ってほしいです。
●試験の前提条件が間違っている
まず患者115名ですが、桜花クリニックで育毛メソラピーを行っているという前提の患者のようです。だとすれば、育毛メソセラピー=HARG(ハーグ)治療をほぼ全員が行っているのだと思います。なぜなら、桜花クリニックはハーグ治療(による育毛メソセラピー治療)の専門クリニックだからです。ハーグ治療は桜花クリニックの福岡医師曰く「効果がないひとはいない。」という発毛治療だそうです。詳しくは「HARG療法・ハーグ治療を中心とした幹細胞発毛治療」を参照してください。
100%発毛効果がある治療(あくまで福岡医師曰くで、私はまったくそう思っていません)を併用しておいて、プラズマクラスターの効果を検証すること自体がそもそも前提として間違っています。
もうひとつハーグ治療を受けている患者さんは、プロペシアやミノキシジルなどの他の発毛治療も併せて受けている方が多いと予想されます(実際に私のクリニックに来た「過去にハーグ治療をしていた」患者さんは、ほぼ全員が、フィナステリドやミノキシジルの治療の併用を推奨されていました)。
なぜ健常者を対象に試験を行わなかったのでしょうか?もしくは脱毛症の患者で試験を行う場合も、他の治療を受けていない患者をなぜ選択しなかったのでしょうか?そもそも桜花クリニックはHARG治療を専門にしている施設で、試験を行う施設選びからおかしなことになっています。
●試験方法がおかしい
シャープは毎日約20分間プラズマクラスターイオン(濃度約150万個/立方cm)を右側だけ照射したとしています。この試験はドライヤーを前提にしているのだと思いますが、20分間も半径2㎝の剃毛部分に当て続けるなどという使い方はあり得ません。
さらに1立方㎝あたり濃度150万個のイオンを当てるには、どれくらい接近しなければならないのでしょうか?非常にわかりにくいです。
そもそもどこから20分間という数字が出てきたのでしょうか?ドライヤーに搭載する装置という前提ですので、1分間や5分間で試験してみようという意見が出てもおかしくないはずです。
同一部位に20分間ドライヤーを当てるというのは、だれが考えてもそんな使い方はしないですし、最初から20分間で試験をしようと思うこと自体、目の付け所がシャープと言わざるを得ません。(最初から、ありえない使い方で試験を行うことで、試験を再現させないようにし、消費者が「全然生えないんだけど」とクレームを言ってきても、「あれは20分間当てるという特殊な環境下で行った試験ですから。」などという逃げの文句を使ってきそうな予感すらします。)
1分間や5分間で検証してだめだったから、20分間にしたのか?そのあたりの情報は皆無のためわかりませんが、本当に115名の患者に3ヶ月毎日20分間当て続けたのか?すら私には疑問に思えてしまいます。ニュースサイトのプラズマクラスター発生装置を見ると下のようなドライヤータイプの写真です。特に固定式ではないようです。
(写真出典 フジサンケイビジネスアイ)
これを20分間も同部位に毎日当て続けるってかなり大変です。どこかに固定していたとしても頭を動かせませんから、被験者はとても辛かったのではないでしょうか?被験者の方115名にどのような方法で試験をされたのか、ぜひ伺いたいですね。
●結果の解釈がおかしい
プラズマクラスターを当てた右側は左側と比較して増毛本数が2.5倍にもなったそうです。増毛本数なので、生えている毛の数が2.5倍になったわけではないので、注意してください。
結果を見てみます。
右側224本→244.9本 20.9本増えた
左側219本→227.2本 8.2本増えた
この結果で育毛効果が実証されたとシャープは結論付けたわけですが、この試験方法は発毛試験です。育毛とは髪を育てること、発毛は髪を生やす(増毛させる)ことです。
右側だけ髪が増えたのであれば、すなわちそれは「発毛」であり、プラズマクラスターは発毛効果があったと結論付けなければなりません。
なぜシャープは育毛効果と言ったのでしょう。もし発毛効果というと、完全に薬事法違反になるからだと考えています。つまり、今回の発表でシャープは、プラズマクラスターは髪に良いというパフォーマンスをしたかっただけで、真剣に発毛効果まで言及したくはなかったのでしょう。
しかし、実際にこの試験は発毛試験であり、もしこの試験が本当だとすれば、追加試験を行うべきです。私はプラズマクラスターに発毛効果はないと考えていますので、発毛すると書いて実際に追試で発毛効果がなかったら大変なことになるので、発毛効果があるとは言えなかったのではないかと思っています。
過去にもプラズマクラスターでダニのふん・死がいの浮遊アレルゲンを分解除去などと謳って、消費者庁から景品表示法違反で再発防止命令をくらってますからね。
ちなみに育毛効果ですらこの試験だけで「ある」とは実証できません。
それともう一つ、剃毛して1.6㎠の毛の数を数えた(患者さんの頭に目印の入れ墨をして計測)とのことですが、どこの部位かが書かれていません。(左右としか見つけられませんでした。)
「育毛メソセラピーを受けている脱毛症の患者」を対象に試験しているはずですから、脱毛部位(毛が少ない部位)で行うのが通常だと思います。しかし、シャープからの発表を見ると、左右とも1.6㎠の範囲に220本程度最初から生えており、この数は、脱毛部位ではなく健常部分と言えます。せっかくの試験なのに、なぜ薄毛の部分で試験しないのかが謎です。
さらに言うと、健常部位で行ったのであれば、育毛メソセラピーをしていない部分でやっている可能性もありますが、公式には左右とも1ヶ月に1回育毛メソセラピーを併せて実施となっており、わけがわかりません。結果ありきで、辻褄を合わせようとすると、いろいろな矛盾点が生じますが、まさにそんな印象を持ちます。
そして生えた本数ですが、左側は8.2本しか増えていないのですが、桜花クリニックで100%効果があるハーグ治療を受けている(福岡医師は3ヶ月程度でかなり生えてくると公式ページで語っています)のに、なぜ3ヶ月で8.2本しか増えてないんでしょうか?ここにも矛盾が生じていると思います。
ちなみに比較で書くと、ミノキシジル5%の外用剤(リアップX5)の増毛効果は、1㎠あたり3ヶ月で23.7本です。(詳細は「ミノキシジル外用剤の発毛効果・有効性」を参照)桜花クリニックの育毛メソセラピーは、ミノキシジルの発毛効果よりかなり落ちると言っているようなものです。
なんだかいろいろヒドイ試験だなと感じました。
追記
10月19日にCNET JAPANに掲載されたシャープチームリーダーの西川氏の説明は、以下のように書かれています。「今回の育毛はプラズマクラスターによる細胞の活性化。発毛は毛根を再生するもので、そこまでの効果は実証していない。」
毛がない部分に毛が生えるという試験をシャープは行っていますが、再度申し上げますがこれは発毛試験にほかなりません。発毛は毛根を再生させると勝手に定義付けていますが、発毛医薬品として認可されているミノキシジルは、毛根を再生させて発毛しているわけではありません。
休止期の毛が脱毛期になり抜け落ち、再び生えるのがストップ(ヘアサイクルが休止)してしまった毛を発毛させるというのがミノキシジルの作用です。発毛医薬品のミノキシジルですら、一度完全に死滅してしまった毛根を再生させて発毛させることはできません。
育毛試験であれば、エリア内の産毛や細い毛の太さが40μm以上に育った本数や、髪の毛の伸びるスピードなどを評価すべきで、2.5倍も多く毛が生えてきたというのは、プラズマクラスターが非常に強い発毛作用を持っている(増毛本数からするとミノキシジルよりやや劣るものの、匹敵する効果)とも捉えられる結果です。
やるなら二重盲検法できちんとした試験を
きちんと評価をしたいのであれば、二重盲検法で行うべきです。つまり、プラズマクラスター発生装置が付いている送風機と、ただの送風機を外見を全く同じにして作ればいいのです。
それをA装置・B装置として、それぞれにアルファベットを印字します。
患者にはA装置を右側に、B装置を左側にそれぞれ毎日20分間当ててもらい、左右差を比較します。
患者も評価する医師もA装置とB装置のどっちがプラズマクラスターがついているのか、外見上わかりませんので、バイアスが省けます。
もちろん患者には他の薄毛治療を一切しない状態で、純粋にプラズマクラスターの働きだけを評価する必要があります。
シャープの試験担当の方、当院で追加試験をしたいのであれば時間が許す範囲で協力しますよ。ぜひご連絡ください。
追記
10月19日にCNET JAPANでリリースされたシャープチームリーダーの西川氏の発言を以下に載せます。
(出典 CNET JAPAN)
シャープチームリーダーの西川氏は「育毛メソセラピー患者において、イオンを照射した右側は、風のみの左側に比べて、頭皮の水分蒸発量が低下。頭皮のバリア機能が向上。」というコメントをしています。
なんだ、プラズマクラスターが出る機械と出ない機械きちんと比較してるじゃん!と思った方もいるかもしれません。
でもあれ?と思った方の方が多いんじゃないかと思います。最初のニュースリリースでは桜花クリニックで育毛メソセラピー患者に行った試験では、右側のみにイオン照射を20分間行い、左側に風のみを当てるという試験を行ったなんてどこにも書かれていません。
再度見てみましょう
(出典 シャープニュースリリース)
「イオン照射した右側は、自然放置の左側に比べ」と書いてあります。
頭皮の水分蒸散量や頭皮のバリア機能向上試験は、桜花クリニックではなく「総合医科学研究所」に委託した別の試験で、その際は二重盲検でイオン照射を片側だけ、風のみをもう一方という試験を行っています。しかし、育毛メソセラピー受診患者において、右側にイオンを照射したものの、左側は自然放置という試験であったはずです。
2つの試験の結果をごちゃまぜにしたコメントで非常に分かり辛いとともに、消費者に桜花クリニックでも二重盲検をやったものと勘違いさせるようなコメントです。
きちんとした二重盲検を追加試験で行ったほうが、シャープのためにも消費者のためにもなると思います。
薄毛改善ドライヤー「ヘアビューザー」
検索してみると、いろいろとこの類のドライヤーが出てるんですね(笑)。遺伝子を活性化させるバイオプログラミングという私には理解不能な原理で薄毛にとってもいいそうです。ちょっと調べると広告サイトやアフェリサイトが山のように出てきますね。
こちらもいろいろ書こうと思ったのですが、プラズマクラスターのことを書いて疲れてしまいました。こちらの美容師さんが書いているブログが詳しいので、興味がある方はご覧ください。「話題のドライヤーとそのメーカーを思いっきりディスってみる!(リンク切れ)」
最後に
今回のシャープが行った育毛試験は、平成22年に医療コンサルの会社に委託しているわけですが、結果ありきの試験委託であったと個人的には思います。
プラズマクラスターに育毛効果があると消費者に見せるには、どのように試験してどの医療機関に頼んで、どのように広告すればいいのかと考えた結果、このような臨床試験と解釈を行って発表というと形になってしまったのではないでしょうか。
債務超過で東証2部に降格し、資本金が5億円になり、現在はホンハイのもとで経営再建中のシャープですが、シャープの製品が売れていたのは、消費者がシャープを信頼できるメーカーだと思っていたからです。
消費者が資生堂の化粧品を買うのは資生堂を信用しているからであり、花王の洗剤を買うのは花王を信用しているからで、大きくなったブランドやメーカーは、信頼を勝ち取ったことの証でもあり、そのために先代の社員が並々ならぬ努力をしてきたはずです。
直近の決算は黒字化し、ホンハイのもとで社員の方たちも経営再建のために一生懸命と努力をしている中で、シャープの今回のような発表を見ると、凋落した企業体質(上層部)は変わってないのかなと感じてしまいます。かつての信頼があるシャープになるためにも、ぜひ今後はきちんとした研究、試験、発表をしてほしいと考えます。