2018/10/21
目次
AGAの遺伝子検査とは?
AGA遺伝子検査は、アンドロゲンレセプター遺伝子(AR遺伝子・男性ホルモン受容体遺伝子)を調べることで、男性型脱毛症を発症しやすいかどうかを測定する検査です。現在日本で行われている検査は、ほぼ100%が、アンドロゲンレセプター遺伝子上のCAGとGGCという塩基配列が何回繰り返されているか(リピート数)を調べる検査です。
CAGやGGCのリピート数とAGAのリスクに関しては、実にいろいろな理由づけが各サイトでされています。どこのクリニックも、CAGのリピート数とGGCのリピート数を足した合計の基準値を38として、それより小さければAGAのリスクが高い、それより大きければAGAのリスクが低いと判断しています。
AGAの遺伝子検査は医療機関で受けたほうがいいの?
DNAの解析には、主に毛髪、爪、頬の粘膜、血液などの試料が使用されます。解析に必要な量が取れれば、試料によって異なる検査結果が出ることはありません。
血液検査のほうが正確性が高いだの、脱毛症だから毛髪で検査しないと意味がないだの書いてあるHPがありますが、すべての体細胞が同じ遺伝情報を持っていますので、関係ありません。
遺伝子検査はアマゾンなどで検査キット購入して、自宅で頬の粘膜を採取し、検査機関に郵送するだけで簡単に行うことができます。
ちなみにAGAの専門を謳うクリニックで、「当院のAGA遺伝子検査は正確性が高い」「限られたAGA専門医療機関でしかできない検査」などと宣伝しているクリニックがありますが、クリニック内で検査しているわけではなく、外注の検査機関に出しますので、どこのクリニックでも、外注先と契約さえしていればできる検査ですし、どこのクリニックで受けても正確性は同じです。
そういったわけで、わざわざ高い医療機関で受ける必要性はありません。
AGAの遺伝子検査の結果は信じていいの?
リピート数の合計が38以下であれば、アンドロゲンレセプター(男性ホルモン受容体)の感受性が高いため禿げやすいとか、CAGリピートが長い(リピート数が多い)ほど、男性ホルモン(DHT)が受容体に結合することを防ぐなど、いろいろなことがもっともらしく言われていますが、果たして本当でしょうか?
結論から言うと、AGAのリスクとCAG+GGCリピート数の間には相関関係はありません。つまり、日本で行われているほとんどのAGA遺伝子検査の信憑性はありません。
もともとAR遺伝子は、前立腺がん、ニキビ、女性の多嚢胞性卵巣症候群など、男性ホルモンが関係している疾患で、いろいろ調べられてきました。その中で、1998年に報告された、48名の男性と60名の女性を対象にした小規模な試験で、AGA患者でCAGリピート数が少なかったと報告(※1)がされ、一気に検査が広まりました。しかし、その後の2012年に報告された、8つの研究のメタ解析では、2074名のAGA患者と1115名のコントロール(AGA患者ではない人)を比較した結果、CAGとGGCリピート数と、AGAリスクに関しての相関は認められず、否定されています(※2)。
※1.Sawaya ME and Shalita AR: Androgen receptor polymorphisms(CAG repeat lengths) in androgenetic alopecia, hirsutism andacne. J Cutan Med Surg 3: 9-15, 1998
※2.Zhuo FL, Xu W, Wang L, Wu Y, Xu ZL, Zhao JY. Androgen receptor gene polymorphisms and risk for androgenetic alopecia: a meta-analysis. Clin Exp Dermatol. 2012; 37: 104–111. doi: 10.1111/j.1365-2230.2011.04186.x. pmid:21981665
CAGリピート数とフィナステリドの効果との関係性は?
AGA患者149名を対象に、CAGリピート数とフィナステリドの効果の関係性を調べた論文があります(※3)。その結果、CAGリピート数が23.5以下の患者では、フィナステリドが効きやすく、CAGリピート数が短いほど、高いフィナステリドの治療効果が得られると報告されています。
論文は一つしかありませんので、エビデンスレベルは高くありませんが、遺伝子検査に意義を見出すとすれば、フィナステリドが効きやすいかどうかを見るくらいでしょう。ただ、遺伝子検査でCAGリピート数が24以上であっても、ほとんどのAGAクリニックで処方される薬はフィナステリド(プロペシア)なわけですが・・。
※3.佐藤明男ら:男性型脱毛症のフィナステリド治療効果とアンドロゲン受容体遺伝子CAGリピート多型との相関性 Skin Surgery:17(2);80-86,2008
肌のクリニックではAGA遺伝子検査はやっているの?
中にはやってみたいという患者さんもいるので、一応、料金表には載せています。頬の粘膜を採取するタイプで12,900円と全国で最安値(ほぼ原価で、美容系のクリニックは2万円が相場です)に設定してしています。「ほとんどやる意味はありませんが、フィナステリドが効きやすいかどうかを見る目安くらいにはなるかもしれません(といってもフィナステリドが効きやすいという結果が出ても効果がある患者さんもいれば、逆のパターンもあり、これも前述したようにエビデンスレベルは高くなく、そんなに信用できるものではありません)。高い検査なので、積極的にはおすすめしませんよ。」と説明すると、みなさん検査を受けませんが。
※AGA遺伝子検査は、上記のような理由から当院では検査自体中止しました。(2016.10.12追記)
AGA遺伝子検査の結果に釈然としなかった方、AGAが低リスクと判断されたのにAGAになってしまった方は、これで少しは解決しましたでしょうか?
PS:
wikipediaの男性型脱毛症のページがあまりに適当だったので、編集してみました。私が、編集した項目は「AGA遺伝子検査」の項目だけですが、他の記述も気になる部分がいくつかあります。もともとは「AGAチェック」となっていて、AGA遺伝子検査を広めたい業者が記載したものではないかと疑ってしまう内容でした。エビデンスを示す参考文献も一つもありませんでした。
編集前の記述
AGAチェック
AGAチェックは毛髪のDNA配列を解析することによってAGAのリスクとフィナステリドの効果を判定する検査であり、専門の医療機関で受けることができる。
AGAの主な原因とされているDHTは毛乳頭細胞のX染色体上にあるARに作用して症状を発現させるが、X染色体にはARを覆い隠すような三次元構造を持つ特殊なDNA配列が存在する。「c,a,g」という三つの塩基が繰り返すことから「cagリピート」と呼ばれるこの構造は長さ(繰り返し回数)に個人差があり、生まれつき長短がある。cagリピートが長ければDHTが作用しにくくなるためAGAのリスクは低く、短ければリスクが高くなる。
cagリピートの長さはフィナステリドの効果にも影響する。cagリピートが短ければ、DHTの作用を受けやすいため、DHTの生成を抑える薬剤であるフィナステリドの効果は高くなる。
AGAチェックはこのcagリピートを測定するものであり、後頭部の毛髪を10本程度採取して検査する。cagリピートは年齢によって変化することがないため、この検査は1回だけ受ければいい。
編集後の記述
AGA遺伝子検査
AGA遺伝子検査は男性ホルモン受容体であるアンドロゲンレセプター(AR)のDNAの塩基配列を調べることによって行われる。DNAの解析は、主に毛髪、爪、頬の粘膜、血液などの検体から、DNAを抽出して検査される。必要量が取れれば、検体の種類による検査結果の正確性に違いはない。主に専門の医療機関で受けることができるほか、自宅で頬の粘膜等を採取し、検査機関に送ることでも調べることができる。
現在日本で行われているAGA遺伝子検査は、主にAR上の「c,a,g」という三つの塩基と「g,g,c」の三つの塩基が繰り返す数、いわゆる「CAGリピート」と「GGCリピート」数の合計を調べる検査である。GAGリピート数+GGCリピート数の基準値を38とし、それより少ない場合は「AGAリスク大」、多い場合は「AGAリスク小」と判定されている。
しかし、実際にはCAGリピート数とGGCリピート数でAGAのリスクが変化するというエビデンスは存在しない。1998年に報告された、48名の男性と60名の女性を対象にした比較的小規模な試験で、AGA患者でCAGリピート数が少なかったとの報告がある[13]一方、2012年に報告された、8つの研究のメタ解析では、2074名のAGA患者と1115名のコントロールを比較した結果、CAGとGGCリピート数と、AGAリスクに関しての相関は認められなかった。[14]
[13]Sawaya ME and Shalita AR: Androgen receptor polymorphisms(CAG repeat lengths) in androgenetic alopecia, hirsutism andacne. J Cutan Med Surg 3: 9-15, 1998 [14]Zhuo FL, Xu W, Wang L, Wu Y, Xu ZL, Zhao JY. Androgen receptor gene polymorphisms and risk for androgenetic alopecia: a meta-analysis. Clin Exp Dermatol. 2012; 37: 104–111. doi: 10.1111/j.1365-2230.2011.04186.x. pmid:21981665