医師が本気で考えるAGA治療

東京で脱毛症・AGA治療専門外来をしている医師のブログ

フィナステリドの副作用 ポストフィナステリド症候群を中心に

time 2015/03/14

脱毛症治療において、世界で最も多くの男性に服用されているフィナステリド(プロペシア)ですが、市販後、臨床試験では見られなかった副作用が報告されてきています。それがポストフィナステリド症候群(post finasteride syndrome)です。直訳する通りフィナステリドを飲み終わった後に起こる(または続く)症状を一括して表した言葉で、アメリカではポストフィナステリド症候群財団(The post-finasteride syndrome foundation)が立ち上げられて、フィナステリド副作用の後遺症に関する研究が行われています。

プロペシアの内服による副作用には、よく知られたところでは性欲減退やインポテンツなどがあります。内服薬のほとんどがそうですが、肝臓代謝であるため、プロペシアも肝機能障害を起こす可能性がありますが、頻度は高くありません。また、薬剤特有のアレルギーがある場合は、発疹、蕁麻疹、血管浮腫などのアレルギー症状が起こる可能性がありますが、これも頻度は高くありません。しかし、生殖器領域においての副作用は少ないとは言い難く、性欲減退は全体の1%~5%の割合で生じることが知られています。だだ、95%以上の患者さんは「何も感じない」のも事実です。

正確な統計は取っていませんが、実際の臨床医の感覚では、性欲がなんとなくでも落ちたと感じる患者さんの割合は、もう少し多いように感じます。

生殖器関連の副作用で報告されているのは、性欲減退の他、勃起機能不全、射精障害、精液量の減少、精子濃度の低下、精子運動性の低下、精子機能異常、男性不妊、睾丸痛などです。その他にも、乳房痛や乳房肥大(女性化乳房)、抑うつ症状、めまい、肝斑が報告されています。男性乳がんの発生報告もありますが、はっきりとした因果関係は認められていません。また、高悪性度前立腺がんの発生報告(相対リスク1.70 [95%信頼区間:1.23-2.34])があります。

多くの副作用は、服用中止後に速やかに回復すると考えられていますが、服用を中止しても副作用の症状が改善しないというケースが報告され、それが冒頭のポストフィナステリド症候群と呼ばれています。

その中で特に問題になっているのは、性欲減退、勃起機能不全、射精障害などの性機能関連の副作用と、抑うつ症状という精神的な副作用です。ポストフィナステリド症候群に関連する論文は、まだ多くは出ていませんが、いくつかご紹介致します。

Incomplete Recovery of Erectile Function in Rat After Discontinuation of Dual 5-alpha Reductase Inhibitor Therapy. [J Sex Med. 2012 Jul;9(7):1773-81]
デュタステリド(これに関しては改めて後述しますが、フィナステリドと同様の作用機序をもつ薬剤です)をマウスに8週間投与したところ、勃起機能(陰茎海綿体弛緩)障害が中止後も完全に回復しなかったという報告です。投与量は0.5mg/日であり、マウスの体重から考えると人よりもかなり大量に使用されているため、この結果がすぐに人に結びつくとは考えにくいですが、8週間という短期投与にも関わらず勃起機能の回復が遷延していることは注目すべきです。

Persistent sexual side effects of finasteride for male pattern hair loss.[J Sex Med. 2011]
過去にフィナステリドを服用していた21才から46才の健康な男性71人に対して、フィナステリドの服用前と服用後(中止後)の性的障害について、インタビュー形式でスコア化を行った論文です。男性たちのフィナステリド平均服用期間は28ヶ月間で、フィナステリドを中止してからこのインタビュー調査をするまでの平均期間は40ヶ月です。中止後平均3年以上経過しているにも関わらず、対象者の94%で性欲低下、92%で勃起不全と性的興奮の低下、69%でオーガズムの異常を感じているという結果になっています。程度の差こそあれ、これは非常に高い数値です。もちろん後ろ向きな調査でインタビュー形式であることや、服用前と中止後に調査が行われるまで、平均で5年~6年という歳月が流れているので、調査としては正確性に欠けることは確かです。性欲低下は、年月による老化現象もあるのではないかとも思われるかもしれませんが、やはりこの結果は真摯に受け止める必要があります。

またレビュー(過去の論文をまとめた形式)ですが、性機能に加えて抑うつ、気分障害、認知機能障害などをまとめた論文が出ています。(私もフルテキストを読んでいないので、紹介のみ)
Review Adverse side effects of 5α-reductase inhibitors therapy: persistent diminished libido and erectile dysfunction and depression in a subset of patients.[J Sex Med. 2011]
Persistent Sexual, Emotional, and Cognitive Impairment PostFinasteride: A Survey of Men Reporting Symptoms.[Am J Mens Health. 2014 Jun 13.]

イギリスとスイスのMedicines Control Agency(食品医薬品局)は早期に性機能障害について持続する可能性があることを、患者さんへ渡すリーフレットに記載するように指示し、遅れてアメリカのFDA(食品医薬品局)も製品の注意書きにED症状、勃起不全、射精不全を追加するように製薬会社へ要請しました。日本でも、勃起機能不全、射精障害、リビドー(性欲)減退の3つに「投与中止後も持続したとの報告がある」という文言が加えられています。

抑うつに関しては、注意書きに持続する可能性があることは記載されていません。しかし、中止後に持続する抑うつ症状は、いくつか報告があります。性欲と精神状態は非常に密接に関わっていますので、報告が全部そうとは言えませんが、フィナステリドの副作用である割合は相当に高いのではないかと思っています。機序としてはフィナステリドによる脳内のニューロステロイド(神経ステロイド)の減少などが報告されていますが、詳しくは分かっていません。
new lookA New Look at the 5α-Reductase Inhibitor Finasterideより引用)
フィナステリドが阻害する5α-還元酵素は、テストステロンからDHTへの変換とその代謝物のアンドロステンジオールの生成だけでなく、プロゲステロンから5α-DHP(5α-ジヒドロプロゲステロン)への変換とその代謝物であるアロプレグナノロン(3α、5α-THP テトラヒドロプロゲステロン)生成、またデオキシコルチコステロンから5α-デヒドロデオキシコルチコステロンへの変換とその代謝物である5α-テトラヒドロデオキシコルチコステロンの生成に関与しています。フィナステリドが5α-還元酵素を阻害することで、アロプレグナノロンやテトラヒドロデオキシコルチコステロン、アンドロステンジオールといったニューロステロイドも減少します。ニューロステロイドは気分安定化に重要な役割を担っているとされ、その減少により不安障害、うつ症状が出現するという可能性があります。(参照神経ステロイドと双極性障害

こういった気分障害が治療後もなぜ持続するケースがあるのかは分かりません。私の仮説ですが、フィナステリドにより代謝物への変換が阻害されたテストステロンやプロゲステロン、デオキシコルチコステロンは一時的に血中レベルが増加しているはずです。その状態が長期続くと、ネガティブフィードバックによりそれより上位のホルモンは抑制されますので、フィナステリドをやめた後も、正常に戻るまでかなりの時間がかかるのではないかと思われます。やめたばかりの時に、一時的に性欲や気分が明るくなるにも関わらず、その後に性欲減退、気分障害をきたすポストフィナステリド症候群が発症するのは、フィナステリドをやめて、5α-還元酵素が一時的に働いてテストステロンやプロゲステロン等をその代謝物に変換するものの、その上位のホルモンは抑制されており、その後には結局テストステロンやプロゲステロンが低下していくために起こるのかもしれません。ポストフィナステリド症候群の患者のフリーテストステロンレベルが低いという報告もあるので、この仮説に合致します。また、ポストフィナステリド症候群の症状の一つとして睾丸萎縮があることもこの仮説に合致します。つまり、テストステロン産生能力が落ちた精巣(睾丸)が萎縮したと言うわけです。

治療ですが、そもそもポストフィナステリド症候群を複数名治療したという論文やデータが何もないため、これもあくまで仮説ですが、テストステロン補充療法は逆効果になるのではと思っています。テストステロンレベルが低ければ補充するば良いという考えは、危険です。なぜなら、その外因性のテストステロンが、内因性のテストステロンとその上位のホルモンを強く抑制してしまうので、結局は一時的な回復のみとなり、その後はさらに症状が悪化する可能性があるからです。これは、テストステロン等の蛋白同化ステロイドを長期に渡って使用したボディービルダーにも見られる現象です。テストステロン等の男性化ステロイドを使用した男性は、一時的には性欲や食欲が旺盛になり、血気盛んになりますが、やがて内因性のテストステロンが産生されなくなり、ステロイドをやめた後は強烈なリバウンドがきます。性欲、食欲減退、気分障害、うつ病など様々な副作用が待っているわけです。

私は、ポストフィナステリド症候群は、気分障害を落ち着けたり、体の免疫力、体力を活性化させるような対症療法や生活習慣の改善で、徐々に徐々にですが、改善していくものと思っています。あまりに長期に飲んでしまって、上位のホルモンを産生する臓器(副腎や精巣、下垂体等)が萎縮してしまっている場合は、ずっと男性ホルモン治療(テストステロン療法)を続けるという選択肢もあるのかもしれませんが、現時点ではあまり推奨出来ません。

肌のクリニック

院長 岩橋 陽介

院長 岩橋 陽介

東京のAGA治療専門皮膚科「肌のクリニック」の院長ブログ。Twitterではスタッフと院長がつぶやいています。 [詳細]